ハンマー!ハンマー!

hammer!hammer!


冬から春。与那国(西崎)で潜ることはハンマーヘッドシャークをはずしては考えられない。しかし、相手はまぎれもなく野生に生きる生物である。水族館などではその堂々とした泳ぎは見られるはずもない。どこまで流されるかわからないような強烈な潮流、時化をもたらす北風の吹き付ける冬。その頃がハンマーの季節である。私たち人間がこいつらに会おうと思ったらそれなりのリスクは背負わなければならない。それでも ハンマーはダイバーを惹きつけてやまないスリルと迫力を持っている。


ハンマーは5メートル !?

よく外国の海で潜ってきた人に「与那国のハンマーヘッドシャークは大きさはどのくらい?」と尋ねられる。その時は大きいやつで3メートル位と答える。しかし、たいがい「〇〇で見たのは5メートルはあったよ。与那国のは小さいんだね。」と言われてしまう。まるで釣師の釣果自慢だ。私はその5メートルのハンマーを見たわけでは無いのでわからないが 西崎で5メートル位のジンベエザメなら会ったことがある。後でそれが写っているビデオで見て(ダイバーと並んで泳いでいたので5メートルというのはほぼ当たっている)これがハンマーならとんでもない大きさに思える。なぜならば たとえ3メートル程度のハンマーでもその体高というか質感が まるで牛を巨大にしてヒレとトンカチを付けたようなものだからだ。こいつらは少なくともそのジンベエザメよりも迫力を感じさせるのだ。そんなのが群れで頭上を泳がれた時の迫力ったらそれはもう・・・ネェ

hammer2

春先のチビハンマーは生意気盛り

サメに詳しい人によると西崎で群れているハンマーたちはほとんどメスだとのことである。冬(12月〜2月)に見るハンマーはお腹まで太くて それでも筋肉の盛り上がりがはっきりわかる質感がある。春には幾分スマートな感じの奴が増える。どこかで出産をしてくるのだろうか。ところで南の根で何度か見たのだが(4月上旬)群れの中に1.5メートル位の小さいハンマーが混じっていた。そいつはまだやせっぽちのくせをしてせわしなく泳ぎ回り自分より大きいイソマグロを追いかけまわそうとしていた。もっともイソマグロのほうは多少迷惑そうに位置をずらす程度ではあったが。どんな生物でも子供のうちは好奇心がいっぱいで生命力があふれている。ハンマーとて例外ではなく とても笑えた思い出である。

カツオの群れの後に来たハンマーの 「(エックス)攻撃」

ハンマーヘッドロックの岸よりで潜っていて その時は遠くにハンマーがちらっと見えたくらいの結果で浮上することになった。ところが浮上開始の指示を出そうとしていると 頭上にカツオの群れが通り過ぎていった。その直後、3匹のハンマーがどこからともなく現れた。いつもと動きが違いキビキビと速いスピードで泳いでいる。ダイバー達があっけにとられながらも再び岩陰に身を隠すと そのうちの一人めがけて2匹のハンマーが右前方と左前方からクロスしながらかすめていった。私は一瞬 「やられた!」と思ったが奴等はそのまま何もせずに去っていった。またもや幸い「ハンマー人食い説」を確認しないで済んだ。 ハンマーの好物がカツオかどうかはわからないがいつもと動きが違っていたことは確かである。今、他の海で潜っていてもカツオの群れを見つけると あたりにトンカチ頭を捜してしまうのは不安だろうか、期待だろうか。

school of hammer

ハンマーのたちはなぜ群れる

私は学者ではないので詳しいことはわからない。しかし、与那国では西崎周辺で比較的 午後にハンマーの群れを見ることが多かった。他のポイントでたまに見るハンマーはほとんど単体か数匹で現れた。ハンマーの多い時には西崎のハンマーウェイから北へ流して行く途中、何度もハンマーの群れに出会うことがあった。もう 西崎中サメだらけといった状態なのだろうか。以前、アメリカの学者が調査したところでは他の地域でもこのアカシュモクザメは群れで行動する サメの仲間としては珍しい生態を持つサメであると 本かなんかで書いてあるのを見たことがある。それにしても 群れで見るより単体で見るハンマーの方が不穏な雰囲気があるのは不思議である。

日本のハンマーは黒潮が棲家

何故 ハンマー達は西崎付近に集まるのかははっきりとはわからない。多分 黒潮が常時もろに当たっていてしかも外洋の中の浅瀬といった地形が彼らの生態に適している為ではないだろうか。私がこれまでそれなりのサイズのハンマーに会ったことがあるのは与那国以外では トカラ列島(鹿児島と奄美大島の間の島々)、銭洲(三宅島、神津島の西にある岩礁)である。その他ハンマーどころでは沖縄の久米島や伊豆の神子元、日本海の玄達瀬が有名である。どこも ほぼ黒潮の通り道だ。日本では黒潮沿いの水温19℃から23℃位がハンマーを狙うには要チェックとなるだろうか。まぁハンマー以外でも黒潮沿いは期待感いっぱいであるけども。

ハンマーの腹

正面数メートルのトンカチ頭

ハンマーを横から見たことのある人はわかるだろうがハンマーの頭は平べったい。それでもその平べったい頭を正面から見てもその迫力に少しも変わらないどころか凄いものがあった。 ある日、某テレビ局が番組でハンマーの群れを放映したいとのことで島にやってきた。地元の漁船を借り切って私も案内役として同行したときのことである。その数日間ハンマーの群れはいっこうに現れず、しびれを切らした取材スタッフはマグロとカツオを持って潜ってきた。水底でその魚をひもに結び水中ナイフで切り裂き血を流し始めた。私は内心 「何すんだよ」と思ったがこの人たちはどこでも(他ではパラオのブルーコナーでもやったのを後でビデオで見た)やっているらしい。ひとしきり 待ったところで近くの斜面の向こうにサメの背鰭が。カメラマンたちは囲い込むように泳ぎ始める。私も業務用のでかいビデオライトを持っていたのでそれに続く。すると、突然全身をあらわしたハンマーがまっすぐこちらに向かってくるではないか。それも目線の水深で。「来ちゃったョ!」私は持っていたライトをまっすぐ奴に向け身構えた。おもわず奴の口に目が行く。たしか口は半開きの状態だったと思う。 ほんの数メートルというところまで向かってきた奴は ドンッ といった感じで反転して行った。近くで見たらホントにでかい頭だった。後でそのビデオの放映を見たが私とは2〜3メートルの距離だったと思う。ナレーションでは 「さすが ガイドは微動だにしません。」 とか言っていたが、いったいあの状況でどう動けるっていうんだろ。みなさん 危ないから やたら餌付けするのはやめましょう。なんといっても相手は毎日狩りをして暮らしている野生生物なのだから。

hammer! hammer! おわり


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iwashi-d@divers.ne.jp