まいろぐぶっく in ソーフツアー

 Natsuyo・W

 

ソーフ…

 その名前を初めて耳にしたのは94年の1月。宮古島でのランチタイムの時の事。

何気ない雑談をしている時、顔見知りのジュンコさんの口から出た言葉。

 前年にCカードを取得したばかりの私にはその名前が地名なのか、それともポイント名なのか、勿論どこに位置しているのかは全然分からない。

ジュンコさんは特に何の魚がいる等は言わない。(記憶にないだけかも知れないが…)ただただ「すごい所」「言葉に出来ない」「最初は(船酔いで)便器とお友達になった。けどすごい」と言うばかり。

細かい表現は一切しなかったのにその時私は漠然とソーフに行きたいと思った。

 

 94年大晦日。やはり私達はお決まりのパターン、宮古の民宿にて新年を迎えようとしていた。宿には別のダイビングショップのお客だけれどグループ客4人、個人客2人、私達を含め計8人が宿泊していた。私達はすぐに仲良くなりみんなで宮古神社に初詣に行ったり、泡盛を囲んで話をしたりした。

宿で泡盛を飲みながら個人客のうちの一人、オダさんと話をしている時、その時再度ソーフの話を聞いた。そして私はやっとソーフと言うものがソーフ岩と言う岩でありポイントだと言うことが分かった。オダさんは話に聞くと大東島などの断崖絶壁、ドロップオフが大好きだそう。やはりドロップの大好きな私は「うんうん」同じ感覚だと思いながら頷いていた。自分と同じダイビングスタイルが好きな人が最高だと語るソーフ岩…。   行きたい。

でもどう考えても自分だけの力では行くことが出来るわけがない。西表と宮古を拠点にしている自分達をそのショップに突然押しかけて「連れていってください」と言っても迎え入れてくれるはずがない。そう思った。ただでさえ何日も船を転がし、何よりも一つ間違ったらとんでもないポイントなのだから………

 

 

 98年初夏。悪友バフから1枚のハガキが届いた。

“あ〜〜 またどっか行ってるナ。ウラヤマシイ奴め…”と思いながら書面を読み始める。

ナッチャン わ〜さんお元気ですか? 私はソーフと言うところに来ています。

 … ☆▲◎■        え゛〜〜 ソーフぅ!!!!!!!

何が“と言うところに”だよお〜! こら〜〜〜 ざけんなよ〜〜〜

 

 その年の8月。バフが我が家に遊びに来た。いろいろな話をしている時ソーフの話がでる。

「来年一緒にソーフ行こうよ!」バフが誘ってくれた。

今迄にも「パラオ一緒に行こうよ!」そう何度も彼女は誘ってくれた。行きたいのだが、一人で関西から行くのは心細く、かといって頑固なワ〜さんはいつも曖昧な態度でいまだかつて一緒に行ったことがない。

私は“絶対行けないよな〜…”と思っていたのだが、が、ワ〜さん「ソーフなら絶対行くよ!」目がマジ。今迄こんな会話はよくしたがこんなワ〜さんの態度は初めて。

 私がCカードを取得した時、みんなに「月に一回近場に連れていかないとなぁ〜」と公言していたから楽しみにしていたのに結局、半年に一度ダイバーで近場だって私のログには4本しか記録がない。(勿論隠蔽もしていない)

しかし、これは、これは本気だぞ〜!!

 

 このツアーは横浜にショップを構える彼女の友人夫婦が企画して実現したそう。

同年末頃から段々具体的な話をし始める。

 

 99年1月、今年は毎年恒例の“おと〜り友の会”がなくなった。関西でどんちゃん騒ぎを出来ないのは淋しい。代わりに2月に“ダイビング事業組合おとーり友の会”と言う形式で関東のみでやるということ。よ〜し!!行って関西の旋風を巻き散らしてくるべか! バフ&カピバラ、横浜のショップのオーナーこまジイご夫妻にも会いたいし、行ったことのないダイビングフェスティバルもたしなみで見てみたいし…

 

 翌月の2月羽田空港。

とうとう東京に来てしまった。前日バフに電話でこまジイ&サカエさんに会えるようにお願いした。ドキドキ..ドキドキ...今日初めて会って、6月には毎日生活を共にする。そう考えると“もし嫌われたらどうしよう”“お断りします。なんて言われたらどうしよう”と色々考えてしまう。

こまジイsan&サカエさんって一体どんな人なんだろう..スレンダー茶髪、気取り屋さん、つんけんだったらどうしよう..。何故か、たまに見かけるショップツアーのイントラさん、某ショップのつんけん姉さんの姿が頭をよぎる。心臓パッコンパッコン 仕事柄、職場ではあまり人見知りしないのだが(きっといつもどうでもいいと思ってるんだろナ..)今回は会う前からドキドキしている。怖いよ〜〜〜!!!

 同日、バフ&カピバラとの待ち合わせ場所ダイフェス会場前に足を運ぶ。大阪南港の催し会場インテックスより複雑そう。前もって待ち合わせの約束をしていたゲート前に行ってみるが二人の姿が確認することが出来ない。あれあれあれ?

「やあ!」と突然後ろから男の声。振り返ってみると宮古で顔なじみのAさん。軽く言葉を交わして再びバフ&カピバラを探し始める。それでも「やあ!!」「久しぶりい〜」「あれぇ?お二人共、関西でしたよね。何で?」何でったってここは東京だぞ〜! 何で宮古で会う顔ぶればかりなんだ〜??

バフぅ〜  カピバラぁ〜どこなんだ〜?  人人人人人人人...

あ゛〜 人混みは嫌いだぁ〜   自分達は気が付かなくても知った顔がいっぱいあるだろう人混み..一体どのくらい知った顔がここにあるんだろ..

 パパパンパンパン…パラランランラ…ララランランラララララララ♪(キューピー3分クッキングのテーマです)

私の携帯電話が鳴る。

出てみるとバフの声「さっきから鳴らしているのに全然でないんだもん」よかった。ホッ 「いま○番ゲートの真ん前だよ」受話器を取りながらその場所へ近付いてみる。居た居た。   久しぶり〜

 数分後、こまジイsan&サカエさん登場。第一印象…スレンダー茶髪“ダイビングやってんだぞ〜へへへ〜ん!!”タイプの人ではないみたい。 私は何故か茶髪、ロン毛、前髪かきわけて“アハン”タイプが嫌いなのか苦手なのか生理的に受け付けない。 まずは安心、ほっとした。

 

 「はじめまして」うっっ 猫をかぶっているつもりはないのだが、背中の猫がヤケに重い…2匹、3匹…

私はゴリラが緊張したとき胸を叩くように、緊張したらベラベラと訳の分からない事を止むことなく早口で喋る癖がたまに出る。

必死で自分に“こわれるなよ〜”と言い聞かせる。

ゴリラと言えばクニちゃん。こんな会話が..こまジィsanがわ〜さんにこう言う。「そう言えば、クニちゃんの友人ですって?」

わ〜さん「いえ!!たまたま同じ職場で同じ年に入社しただけです。」大きくかぶりを振る。そこまで否定しなくてもいいのにネ...

その後皆でしばらく会話をする。

第二印象…こまジイsan落ち着いた人、サカエさん物静かでお姉さんタイプの人..シャイな(?)私は再びほっとする。

 

 

 待ち遠しいと思っていたが早いものでツアー一週間前、そそくさと荷作りをはじめる。5日前にこまジイsanが送ってくれたメールを参考に荷物を揃えてみる。

「わ〜さぁ〜ん、Tシャツ何枚ほど要るかな〜」「シャンプーや石鹸持って行った方がいいよね〜」。わ〜さん最初のうちは返事をする。「わ〜さぁ〜ん、コーヒードリッパー持ってって使えるかな〜」「わ〜さぁ〜ん」「わ〜さぁ〜ん」わ〜さんベキベキ… ピカッ ゴロゴロゴロ〜〜〜!!!! 

「今すぐバフん家に電話して何が要るか聞いてこい! 菓子類は一切持ってくなよ!いいか分かったか?!」怒られてしまった。怒られたって私ゃクルージングは勿論、こんなツアー初めてなんだからしょうがないだろに ブツブツ

ふてくされながら電話する。シャンプー&石鹸OK、(聞いたかわ〜さん!)ドリッパー×、アドバイスで登山用シート&冷えピタシート、そして折り畳みイス【注@】なんかあるといいよということで再度荷作りをはじめる。疲れたときのために、こっそりあんドーナツも忍ばせて…

 

 ツアー出発3日前の金曜日の事。二月下旬から長期で行っていた仕事が今日でやっと終了した。今までの派遣先の中で最もHeavyと思われる会社。終わったよ〜

今日は家に帰ったら打ち上げだ〜!! と、会社そばにあるシャトレーゼでケーキ4個、チョコミント6個入り、スティックタイプのアイス10本入り、ピザ23センチ1枚を買って家路につく。

シャンパンをかっ喰らい、バケットをむさぼり、ケーキを食べる、わ〜さんケーキが不味いと言うのでこの日私はケーキを3個半分食べることになる(実は前日近所のケーキ屋さんで2個買って食べていたりする…)

あ〜終わったよ〜幸せ。

後は念願のソーフツアーを待つだけ…

 

 ツアー前日、あまりにもHightになり過ぎて眠りたくても寝られない。はやく寝なければ...

 

 ツアー当日、待ちに待った念願のソーフだあ〜

家を出るのは午後3時の予定。朝から鼻歌まじりで家の掃除などをする。

わ〜さん午前で仕事を切り上げて12時過ぎに帰宅。KeepCleanの為、整頓された部屋の中で二人並んでお雛様状態。 

3時、さあ〜! 出発だ! いざ大阪空港へ。

…… 少し前に“マーフィーの法則”って本が話題になったよな〜。

電車のダイヤが上手く合わない場合を考え余裕を持って家を出たのだが、こういう時に限って上手く行くんだな〜。大阪空港に着いたのは4時。大阪発羽田便は5時半。二人並んで再びお雛様状態。

 羽田空港到着7時前、竹芝桟橋集合は9時半。さて何をしよう………

とりあえず晩御飯でも食べますかということで、見物がてら空港の4階ぐらいまでグルグル散策。(?)

上階の方に行ってみると婦人服・アクセサリー売場が目立ってくる。

「クリスチャンディオール…食えないしな〜」「サンローラン…イロブダイみたいで毒々しいな〜」JJやCamCan大好きっ娘達が卒倒しそうな発言。

さて何が食べたい?

わ〜さん「明日から、嫌って程魚食うだろうから魚類はパス」私「そだね」

私   「ちょっとお腹の調子悪いから脂っこいのはやだ、中華はパス」

わ〜さん「じゃ、ここ」と指さしたのはイタリアンレストラン…おいおい私の言うこと聞いてなかったの〜!?

わ〜さん「なあ、お前その“こまじいさん”ってのやめろよォ…」

私は敬称の意でそう言ってるのだが、わ〜さんには“おジイさん”と聞こえるそう。何故か、この前読んだ小説“アルジャーノンに花束を”のパロディ版短編小説“あるジイさんに線香を”が私の頭の中で思い浮かぶ。

 

 9時半、集合場所の竹芝桟橋へ。

バフは少し遅れて来ると言う事、そうなればこまジイ&サカエさんしか分かる人がいない。歩いている時からダイビング器材を持った人がチラホラ。同船するメンバーかも知れない…と思い再び背中に猫を背負う。 重い..

こまジイ&サカエさん登場、そして他のメンバーとも合流。緊張…

10分後、バフ登場。馴染みの顔が現れたのでホッとする。「これケイちゃん」と一緒に登場した友達を紹介してくれる。

 東海汽船“さるびあ丸【注A】”に乗船。

“夜景を見よう!”とこまジイsan&サカエさん、バフ&ケイコさん、耳鼻科のセンセ、わ〜さん、そして私は甲板に出る。

耳鼻科のセンセ「東京タワーきれいだな〜」と話しかけてくれる。私一瞬「………。?」(どれだろう?)そして数秒後、横須賀基地の話が出てくる。やはり「……。?」(何で唐突に基地の話が?)するとセンセ目の前の陸地一体が横須賀基地だと教えてくれる。「そぉ〜なんですか〜??」とバカ姉ちゃんみたいな反応をしてしまった私。トホホ..(今思い出しても恥ずかしい..。)

言い訳!! 実は横須賀基地は勿論、東京タワーを見たことがなかったのです…。

センセは本業以外にも色々やっているそうでダイビング雑誌にも原稿を書いているそう。このツアーの為にこの前、久々に買ったが(八丈島・小笠原ガイドブックが付いていたのだ)、ここ数年ダイビング雑誌を買っていない私。しまった。来る前に何冊か読んどけば良かった..会話が出来ず再び「………。」センセごめんなさい。

 時が段々緊張を和らげてくれる。いつの間にか言いにくかったこまジイsanがすんなりこまジイに、(こまジイの第三印象?…フッフッフ内緒だよ!)ケイコさんがケイちゃん、耳鼻科Dr.ミホさんなんかセンセからみぽリンに。  

 翌朝5時半。三宅島到着のアナウンスで無理矢理起こされる。悔しいからわざわざ甲板にでて島を拝む。再び就寝。

8時またまた無理矢理朝食のアナウンスで起こされる。あたしの低血圧は色っぽくないんだぞ〜怖いんだから〜!!某宗教団体が休日の朝からインターホン鳴らしたら怒鳴り散らすぐらいなんだからね〜。やっぱり悔しいから食堂に行く。

何かお腹がムカムカする。まずいな、酔い止め飲んどこ……と思い薬を袋から出す、と「なんか座薬みたいだね」とケイちゃん。こらこらこれから口に入れようとしているのに… 「あれケツの中に入れるとぐちょぐちょぐちょ〜って溶けるんだよね〜」こまジイ。あたしゃ、みんなの優しさがよ〜〜〜く分かったよ…。

やっぱりお腹がムカムカ。アッパーデッキでゴロ寝をしてみる。

 

 9時半過ぎ、ようやく八丈島に到着。さすが梅雨だ、こちらもドシャ降りの雨。

まずは買い出しに一行島内のスーパーへ。

初めての八丈島。西表の様な島を想像していた私はとても驚く。

頭では分かっているけどここは東京都内。すれ違う車の全てが品川ナンバーなのにはビックリ!

一行スーパー到着。皆思い思いのものをカゴに入れる。5日間“スーパー魚屋”しかない生活。一体何がどれ位要るのだろう… 踊る食欲大魔人、飲み物以外にカップ麺、オレンジ、トマト、ボーロ、ポテトチップ、カロリーメイトを我が家の大蔵省にお願いする。

 買い物終了後、今度は一行ソバ屋で昼食。控えている訳ではないが冷麺が食べたい...ビールも手招きしているがさすがにこれは控えねば..飲みたいよぉ

ショップ到着、コンゾさんとご挨拶。そして船に持っていく物の荷物整理をする。

 

 さあ!いよいよ出発だ。しかし、すごい雨… 港にゆっくり別れを告げる暇なく雨に押されてみんな船室へ。

雨もすごいが、時化もすごい。ザバ〜ンッ、ザバ〜ンと船が海面から1メートル飛んだんじゃないかい?(そんな事はなかろうが…)と思う様なことしばしば。段々お腹の調子が…お腹を上に向けたら少しは楽かと思い、体勢を変えてみるが余計気持ち悪い。今度は横に向いてみてお腹には負担がなくなったが、うっ…気持ち悪い。..眠ったら楽なんだろうけど眠れない…

そうこう思っている内に誰かがムクッと立ち上がり物凄い勢いで外に出ていく。あ゛〜胃酸が!もうだめ! ツラれて私も出口へ直行。ドアが開かない、開かないよ〜 。 ドアの側で横になっていたアキさん急いでドアを開けてくれる。船縁で餌付けしたら魚は大喜び、船室で餌付けしたら大顰蹙……

… アキさん感謝します∞

 少し落ち着いたと思い、船室に戻る。しかし少し動いただけで気持ち悪い。指先動かしただけでも気持ち悪い。すると再度誰かが…。またツラれて込み上げてくる。染まり易いタイプだと自分で分かっているケド何でこんな事まで……

船縁から離れられない。学生時代バス旅行で具合の悪くなる人を見て“軟弱な奴メ”と密かに思っていた。小説やマンガに出てくる「吐いて吐いて、腹に何もなくてもそれでも吐いて… 」という台詞を“バッカじゃない〜?”と思ったりもした。しかし今まさにその状態だよ〜。昨日晩から何食べたか否が応でも分かる状態。腹の中に何も無くなった事も分かる状態。....  地獄絵図だあ

もう目には苦しくて涙ボロボロ。その時誰かが背中をさすってくれた。温かい…

少し落ち着いて後ろを振り向くとコンゾさんが。何も言わないけど温かい手。

動く事が出来ない。どうも船室に“悪霊退散!”のお札が貼っているらしく私は寄りつけない。仕方なくその晩、船室外で私はポチになる。

時々、幾度となく、誰かが様子を見に来ているのが分かる。でも動けない。

 

 翌朝、空はピーカン、波も穏やか、海は硝子の様なブルー色。気分も爽やか。

しかしまだ食欲はあまりないのでカロリーメイトを頬張る。“そうかこれがカロリーメイトの正しい食べ方”なんだとこの商品の価値を初めて感じる。

 船は緩やかな波の中、鳥島へ向かう。

 

 ようやく鳥島に到着、雰囲気が仲之神島に似ている。野鳥の棲息する場所ってどこかしら共通点があるのかしら… 。

 いよいよ初ダイフ、1本目はバディ同志のフリーダイビングと言うことで、用意を始める。まずはカメラを持たずにのんびり潜りましょう。

こまジイに合図を送ってエントリー。滞空時間が長い、ボチャ〜ン!

海の中は流れもなく穏やか、わ〜ユウゼンだ〜!! きっとこちらの海ではさほど珍しくないのだろうが、私はユウゼンか一番見たかった。イシダイも見たことないぞ〜、美味しそうなハタもいっぱい、大好きなタテキンもいるがそれほど神経質ではない。日本海の様な墨絵の世界でもないし、沖縄程ハデでもない何か不思議な光景。

約束の30分が経過したのでそろそろエギジットしようと思っていたとき、カマス100本程の群れが… おおっ

 やっぱり一応ダイバー。すっかり海に浸かって元気になる。

 少し早いが昼食を摂る。船室にはまだ近付けないが、ソーメンとても美味しそう。“ソーメンならアッサリしてるし大丈夫”と思う間もなく争奪戦に参加する。

 船を少し移動させてる時、突然「イルカだ!」と誰かの声。見るとイルカが2頭船に寄り添って泳いでいる。 カマスといいイルカといいう〜ん良いでだし!

 2本目、次いで3本目、今度はカメラ持参でエントリー。すると“撮ってくだされ”と言わんばかりにマダラエイが2枚落ちている。全然動かない。これが撮れなかったら最低、と慎重になりながらシャッターを押す。

 水に放たれた魚と言わせてもらおう。パワー全開! 元気元気!…まだ船室は怖いが…

 晩御飯はスキヤキ&サシミ。食欲はあるのだが、船室が怖い…。寝る前だからと量を控えているのに、みぽリン「コレ旨いよ〜。いける!」とサシミを御飯の上にのせた醤油茶漬けを見せびらかす。食欲大魔人、欲求に負け「少しだけいただきます」う〜、いっぱい食べたい…

 そろそろ寝ようと皆船室へ入っていく。“大丈夫かな”と思いながらおそるおそる入っていったが、大丈夫の様。今日はポチにならなくて良さそうだ。

船は夜中に移動して明朝ソーフ岩に辿り着くという事。

とりあえず酔い止め飲んで…と。

あこがれのソーフを夢見ておやすみなさい……。

 

 次の朝、誰に起こされるでもなく船室の外に出る。“ソーフが見たい”

 船室を出ると、もう既に岩が見えている。

だだっ広い海面に短刀の様な形をした岩がひとつだけそびえ立つ。

“ソーフだあぁ!”ず〜っと来たかったけど来ることは不可能だと思っていたポイント…。胸の奥から何かが込み上げてくる。

 「じゃあ潜りましょう。」その言葉を待っていた。朝7時にもなっていないし、朝食も食べていない。でもそんな事どうでもいい。昼食を食べなくても今ならきっと平気だろう…。

 エントリー前、かなり緊張気味。今迄に人に聞いた話が段々、膨れ上がる。“言葉に出来ない”“表現できない海”

 1本目エントリー、流れもさほどなく、水深も15m無いだろう。レギも普通に吸うことが可能な状態。

頭数を確認して岩を時計回りに移動しはじめる。少し移動すると、水中に魚がいっぱい泳いでいる、と最初はその程度に見ていたのにそれらは只者ではない。よく見るとカスミ、ギンガメ、カッポレ等のアジ系、イソマグロ、カマス、ツバメウオ等々。四方八方ウヨウヨ泳いでいる。かと思えば水面近くにはカマス群れ、あっちの水面は小鮫がウヨウヨ。こっちを見ていたら、あっちにダ〜!そっちにガ〜!遠くを見ていたらノッペリ顔のツバメがマスクを突ついたりする。

ファインダーを覗いている暇等ない。もったいない。目で追っていてるだけでも足りなくて、あと2、3個余分に目が欲しい。

全くケタが違う。違い過ぎる。全てのものがすぐ目の前を悠々と泳ぐ。

 エギジット後、何も言えない、表現しても変になる。

 ノンビリしていると“海んちゅ”二人が何やら始めようとしている。いっぱい針の付いた長い釣り糸を船縁から垂らしている。“何が釣れるんだろ”

 「ひっかかった〜!」数分後船上がざわめく。見る見る間に船の上はカンパチ、アオダイ【注B】、マグロ、シマアジ等々、まるで卸売市場の様。海の中で見た魚もデッかかったが、あがった魚もデッかい事! シマアジは卸売りで結構良い値がつくという。コレ持ってズラかりたい気持…

 2本目エントリー、1本目が“当たり”だったわけでないことが分かる。ここではこれが当たり前の光景なのだ。目の前を通り過ぎるマグロの目が動く、デカい! 今度は1m強のサメが直ぐ側を通り過ぎ、かと思えばもう1匹寄ってくる。今まで出会った大概の奴らは人を恐れて避けていく。でもここに居る奴らは全く人を怖がらない。あんまり堂々としているものだからこっちの方が怖い。まさに野生の海そのもの。

“銀色(タンク)の魚が紫色(スーツの色)したコバンザメをつけて変な泡出している”位にしか思っていないのだろうかコイツらは…

 3本目、やはり目で追うのが精一杯。エギジット後に「全然カメラ撮ってないじゃない?!」とチェックされる。鋭いっ…。

 晩御飯、わ〜い、カンパチとアオダイのお刺身だ。辛子醤油とわさび醤油お好きな方で… 以外なことに辛子醤油がこれまた良く合う。ここに来る前は“嫌って程魚攻撃”とビビッていたが、ここの魚は身が締まっている。うれしい悲鳴。旨い旨い

元気になり、段々と食欲大魔人、正体がバレる。

 

 ソーフ岩に来て2日目、この日も普段なら絶対起きていない時間に早朝ダイビング。

 1日経っても魚影が濃い。今日の1本目も時計回りにエントリー。岩の亀裂からら出ようとすると、おお〜っ(今時の言葉で言わせてもらおう)めっちゃ、デッかいマグロ、3m有るんちゃうか〜!。胴回りなんかDBブラザーズより遥かにブッとい。(お聞き苦しい表現法、深くお詫び致します…。)

“デッかい〜”と言っていると、もう1匹下からマグロが… いや?今度は同じ大きさだがスレンダーなフォルム。ン?

サメだよ〜〜〜〜! 3m程有るメジロらしきサメ、こっちに来るよ〜〜〜〜〜

思わず横に居る人に飛びつきそうになる。でも我慢、暴れないよう自分に言い聞かせ、岩にしがみつく。そうこうしている内にサメは左方向に退散。ホッとしたのも束の間、左へ行ったはずのサメが今度は右からこちらに向かってくる。

さっきと様子が違う。尻尾をプリプリ、身体をくねくね、目がギョロギョロ、どこか挙動不審。またもや岩にしがみつく。サメ、左方向に退散。

ようやく亀裂ソバから離れ、やや水深をあげて移動。水面近くにいる鬼カマス、岩のそばのカマスの群れ、それを見た後何気なく深場を覗くと、また居るヨ、さっきの奴らしいサメが。しかも今度は同じ大きさをしたのが2匹。そうか、さっき2匹居たのか…。

 サメが見えなくなったのを確認して浮上し始める様子。はやく浮上したい…。

今迄寒くて浮上したいと思ったことは何度かあるが、怖くて浮上したいなんて初めて。

 2本目、今度は時計と逆方向にエントリー。岩の亀裂を流れる潮が強い、普段なら潮に身を任せるところだが、ここでは身を任せた途端にサメのお口の中なんてことになりそう。亀裂に手と足で踏ん張る。いくら丈夫なニコノスでも壊れたら今は修理代が払えない…。

案の定、デカいマグロの後ろにはデカいサメが。マグロでも食べる気なんやろか。えっ? 今度は私達の方に寄ってくる。私達の方がマグロより旨いとでも思ったのだろうか。

行動パターンはさっきと同じだが、今度は徐々に水深を上げて、周辺を迂回し始める。まるで「お前らは何者だ?何しにここに来た」とでも言っている様。

決して声を発しているわけでなく怒鳴っているわけではない。

しかしコイツらは怖い。エンジン音もしないし、メガホンも銛も持ってない、もちろん演歌も軍艦マーチも流さない。ただそばにいるだけなのに凄く怖い。

私は思った“私達はコイツらに潜らせてもらっている”のだと。

“私は岩です、岩です!どうか食べないで下さい”と願った。

 海上保安庁のヘリって直ぐ来るのだろうか、東京の病院までどの位時間かかるんだろう…等としょうもないことをこの時、ふと考えた。

実はこの時300本達成。250本目の時は死ぬかと思った。今回は海に対して改めて謙虚になった。まだたった300回しか海に浸かっていないんだ…

 3本目、今度はこまジイ&サカエさんだけで潜るそう。お〜い!あんな状態の中ふたりで潜るのかい? 私達が潜っている間、船の上からデッカいサメが2匹見えたというおジィ“やめたほうがいいんじゃないかい?”と本当に心配そう。戻って来なかったら船だけ流して鳥島で余生を過ごそう…とまで考えたそうな…

 真顔で打ち合わせをした後、ふたりはエントリー。潜降後、船の上からふたりの泡を追う。

気が付いたら私は岩にぶつかる飛沫の泡を追っていた。しかしコンゾさんは一点の場所から目を離さない。分かっている。さすが…。

 こまジイ&サカエさん無事エギジット。サカエさん:「亀裂の出口からデカザメ覗くんだ」「ちびザメなんか浮上するとき付いてくんだ」。

ぞぉ〜っ 

 

 どうも天気がもうすぐ不安定になりそう。さっきから頻繁に無線でやりとりをしている。今晩の内に鳥島へ戻ろうとソーフ岩に別れを告げる。

いつまでも、いつまでも別れを告げ…ようとしていたが、でっかいソーフ岩以外何もない海域、いつまでも見えるソーフ岩。

 こまジイ、なんか昨日あたりから元気がない。聞いてみるとソーフに無事たどり着いてホッとしているとの事。そりゃそうだな、主宰者としては神経ビリビリ、有刺鉄線張り巡らし状態だったハズ...こまジイお疲れさまでした。(第4印象、やっぱり内緒)

 急にエンジェルパイ(おジィから貰った)が食べたくなった。一気に二袋食べる。もう少し食べたい気もするが、家から持ってきたあんドーナツは腐っていそうで勇気がない。

少しお腹が膨れて今度は眠気が…少し昼寝ё 「なっちゃんラーメン出来たよ〜」とサカエさんが起こしてくれた。ムクッと起きてガツガツ食べる。鍋に残ったスープまで啜ってしまったよ…再び昼寝ё 最初の船酔いの時といい(身体の事)、昼寝(食欲大魔人が食いっぱぐれない様)といいサカエさん、ご心配お掛けしました…。

 

 夜、鳥島に到着。今日の晩ごはんはカレー。またもやガツガツ食べる。しっかりおかわりも…  この頃から(だろうか…)“最初はヤワに見えたが実はバリケートな奴”“よう食うヤッちゃ…”とみんな、暗黙の了解。

 

 船が港から出て5日目。さあとうとうラストダイブ…。

普段見られない魚達を目に焼き付けておこう、とそれらに近付く。

八丈島の海もこんな感じなんだろうか…。今度は島周辺をゆっくり潜ってみたいなぁ〜。

 

 エギジット後、速やかに行水を済ませて八丈島へ船を走らせる。

少し眠い…昼寝ё 「お〜い。タコの刺身〜」と今度はわ〜さんが…。

わ〜さん感謝、タコ、凄く美味しい! あんまり私達が食べるので追加でさばいてくれた。みんなも目的達成でホッとしたのだろうか、コンゾさんを交えてちょっとした酒盛りが始まる。急に私もビールが飲みたくなった。(船酔いが心配で乗船中、禁酒を心に決めていたのダ)「わ〜さん、一口恵んでくれィ」と人のビールを横取り。一口だけなら…と思って飲んだのだがコレがまた旨い!「もう一口」「もう少し」…

結局缶3分の2ぐらい飲んだのではないだろうか。最初から一缶空ければよかったかも。

 そのあと、船の尖端で景色を眺める。島も見えない何にもない海だけど明日の朝には陸の上…と思うと何故か寂しい。哀愁ににふけている(?!)とバフが、続いてケイちゃんがやってきた。しばらくあれこれと話をしていると「グレープフルーツ食べる?」ケイちゃんが聞いてくれた。わ〜い! 実は買い出しの時グレープフルーツを買おうとするとわ〜さんに「オレンジにしろよ」と言われ、オレンジにしたのだ。

何故かケイちゃんとはコーヒーといい、グレープフルーツといい嗜好が似ている気がする…親近感。 また一緒に潜ろうね。

そしてバフ、このツアーに導いてくれてありがとう… 

 

 翌朝、目が覚めると港に着いていた。

戻ってきたんだ... ボー......

 

 

 とうとう今日でツアーも終わり...

何年もあこがれていたソーフ岩、久々にダイバーらしい(騒ぐ事も勿論好きだけど)仲間に出会えたソーフツアー。これまで私が思っていたショップツアーに対するイメージを変えてくれたこまジイ&サカエさん。そして以前、私が死ぬかと思ったと言う体験話をした時、「オレなら、客を連れている時、絶対放ったらかしにしないヨ(等々)」と“放し飼いダイビング”について考えさせられる話をしてくれたコンゾさん。きっと天狗ダイバーになることはしばらくないでしょう。ここの海を覚えている限りは……

 

 今回のツアーは目的以外にも収穫がいっぱいあった様に思えます。

 

 

 

 

■□■ 余談 ■□■

 「なぁ...サメの写真一枚も撮ってないんか?情けない...」出来上がったスリーブを見てわ〜さん呆れる。

…んなこと言ったって初対面のサメがあんなに情熱的だったらちょっと怖いんでないかい?

 

 自宅に戻って二週間になるが、我が家ではまだ一度も魚を食べていない。船上での魚があまりにも美味しかった為、スーパーの魚が不味くて食べられた物ではない。

 

 

 

解説

【注@】折り畳みイス…

バフとコンタクトを取っている時、どうも私がボケて勝手に思いこんで持っていったみたい。だがこれがなかなかスグレ物で重宝した。最後の日おジィにプレゼントする。おジィ、今頃愛用してるかナ…

【注A】さるびあ丸 …

我が家では論争が起きている。私「さるびあ丸に乗ったんだってば」わ〜さん「かとれあ丸だっちゅ〜の」誰が覚えている方教えて下さいマセ。

【注B】アオダイ  …

これまた論争が…私「アオダイだってば!50センチはあったってば〜」、わ〜さん「い〜や!シロダイ!そんなでっかくない。マグロと勘違いしているやろ、お前の頭スポンジになってるから黙っとけ」ムッカ〜こちらの方を優先で誰か真相を教えて下さい。悔しいです。

 ソーフツアー  …

“八丈南ツアー”と言った方が適切かも知れませんがソーフ岩の位置がまだ分からない頃から“ソーフ”“ソーフ”と言っていた為、あえてこう書きました。

「豆南海域漂流記」 脇坂 裕


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